週報後期 表紙絵紹介

『想う』
日展評議員 彫刻 杉村 尚会員造
作品解説
 “眞理は一つなり、そのイメージは万華なり”東京美術学校(現東京芸大)在学中、北村西望先生の教室で彫刻を勉強していた時に、見付けた言葉であり、それ以来、私の座右の銘としているのである。
 “眞理は一つなり”とは、この世の中には、ほんとうのものは一つしかないと、私は理解しており、ほんとうの美しさを追い求め、彫刻を造像しているが、仲々見えにくいのである。
 不思議な自然の現象には、ほんとうを感じるが、見のがすことも多い。
 暑い夏、干抜の毎日が続き、庭の、あじさいの葉が、しおっとしている時、その夜雨が降り、次の朝、太陽の光の中で、あじさいの葉の輝きは、「生き返ったよ」と私に語っている様に感じられ、「よかったなぁ」と生き返った葉の生命を感じると共に、私もやらねばならんと勇気づけられるのである。そんな時に、彼女は私のアトリエにやって来た。
 私の制作が、始まったのである。溌剌とした若人であり、若さの中に広がる夢、希望に燃える眼差しは、私の気持まで新鮮にするのをおぼえる一刻であった。動くゆびさきの表情、じわっと、汗ばむ皮膚のむくもりも彼女らしく、よしと、それをいただいた。
 彼女の心の中まで、自分勝手に考えたのかも知れないが、そんな像が完成し“想う”と云う名題をつけた。

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