Contents
ホーム
組 織
行事報告
近隣クラブ例会場一覧
6月号 鱸サンド
高橋拓児
鱸という名は「すすぎ洗いしたようなきれいな身」に由来するとされ、身の質は鯛に似て、柔らかくて旨味があります。鱸の旬は夏で、日本の各地の内湾や中国、台湾、朝鮮にも広く分布しており、瀬戸内海では、大阪湾、播磨湾、周防灘の順で漁獲があります。鱸は成長とともに名前の変わる出世魚で、30cm以下をセイゴ、30cmから60cmをフッコ、60cm以上を鱸といいます。フッコの時までは大きな河川の喫水域より上に住み、成魚の鱸になると、喫水域の近くの海に住みます。幼少時を河川で過ごすので、どうしても河川の匂いを身につけてしまいます。この匂いは成魚になっても取れず、これが鱸特有のくせになります。そのくせを取る手法の一つとして、「洗い」があります。「洗い」とは活け〆にした鱸を、手早く薄造りにし、日本酒で割った氷水で身が白濁するまで余分な脂肪分を落とし、身を立たせ、味とその食感を楽しむ調理法です。写真は鱸の洗いを氷にサンドして出す『鱸サンド』です。梅肉醤油やちり酢で食し、涼をとる、最高ですね。
5月号 貝の王者
高橋拓児
新緑が目を覆う頃になると、貝の王者がやってきます。それは、『鮑』です。鮑は、サザエ等と同じ巻貝の一種で、エゾ、マダカ、メガイ、クロ、トコブシなどの種類に分類されています。関西の料亭でよく使われるのはクロアワビで、肉質がしっかりして歯ごたえが良く、水貝や刺身で食べることが多いです。鮑の主食は、昆布・若布などの海草類で、それを自らの口で噛砕き、その養分を体内に吸収します。つまり鮑はグルタミン酸「うまみ」成分の塊であり、良い海藻類の産地であるからこそ美味しい鮑が獲れるのです。アワビ類の産地は種類によって異なり、海流によって影響されます。対馬暖流の影響がある日本海側ではクロ・メガイ・マダカの三種が九州から青森・北海道南部まで棲息しますが、太平洋側では茨城南部までで、それより北の福島・宮城・岩手県までは千島海流の影響でエゾアワビしか棲息できません。次に鮑のオス、メスの見分け方は、肝の色で判別出来、雄は茶系、雌は緑系の色ですが、味はそれ程差がありません。今回は、クロアワビを薄く切り、石で焼いて肝醤油をつけて食する「鮑の石焼き」です。鮑を焼いた時の焦げた磯の香りが、何とも夏の訪れを予感させます。
4月号 明石の鯛
高橋拓児
明石の鯛は水温が下がる冬、温かい海を求めて紀伊水道を南下します。そして桜の咲く春頃に再び元の住処に戻って産卵します。その姿は頭が小さく、丸々と美人、品格があります。身は、飴色で透明感があり、赤い縞模様が鮮やかです。確かに明石の鯛は美味しい。では何故でしょう?それには三つの理由があります。一つに海、明石海峡は潮の流れが速く、それに立ち向かう鯛は筋繊維が強くしまりにくい。更に海老や蟹、イカナゴや蛸のような良い餌が豊富だからです。二つ目に漁師の技術です。出来る限り鯛にストレスをかけないように、すばやく網を巻き、そっと浮き袋の空気を抜きます。これがかなり難しいのです。三つ目に魚屋さんの「活け越し」と「活け締め」の技術です。暗い水槽で一晩泳がし、網にかかった際のストレスを癒し、体の老廃物を出します。そして次の日、手鈎で頭を一刺ししてエラ下で神経を切り、ピアノ線を通して脊髄神経を破壊します。鯛の生命活動を止めて死後硬直を遅らせ、活かった状態を持続させるのです。この三拍子揃うからこそ美味しいのです。今回は明石の鯛を薄造りにすることで、空気にさらし熟成させました。あっさりとした柑橘酢で白ワインとともに如何でしょうか?
3月号 白魚の柳川鍋
高橋拓児
「月は朧に白魚の篝も霞む春の宵」。これはご存知、歌舞伎『三人吉三』の台詞で、初代「吉右衛門」の名演技で有名です。この文句の通り、隅田川に舟を浮かべて篝火を焚く白魚漁が始まると、江戸にも春が訪れると謂われていました。白魚は、透き通った容姿がいかにも可憐な魚で、かつては日本各地に生息していましたが、水質汚染で激減し、今は宍道湖など限られた地域に生息しています。河口の汽水域や海に入って、浮遊性の小動物を食べて成長し、一年かけて全長7cm前後に成熟し、産卵・放精後に斃死します。漁師たちは「小型定置網」と刺し網を前日の夕方から湖へ下ろし、早朝に引き上げます。その網を持ち帰り、女房たちが白魚を傷つけないように一匹ずつ丁寧に網から外します。そんな一匹一匹を大切に扱った宍道湖の白魚を使った柳川鍋です。三つ葉と山椒が春らしさを一層引き立ててくれます。
2月号 煮物椀
高橋拓児
日本料理の代表といえば、やはり「煮物椀」だと思います。写真のような、黒漆の御椀に、甘鯛の身、うぐいす菜、のし人参、松葉柚子の組み合わせは特に日本を感じる一品です。では、何故我々はそう思うのでしょう。一つには「五行思想」の影響が考えられると思います。「五行思想」とは中国の春秋戦国時代に発生した思想で、万物は「木火土金水」という五つの要素により成り立ち、四季の変化は五行の推移によって起こると考えられ、日本の暦に結びついています。また、四季・干支・方角・色などあらゆるものにも五行が配当されています。「木火土金水」に対して、「青紅黄白黒(五色)」、「色声香味触(五塵)」が存在します。それらの五行をこの煮物椀に当てはめると、「木・青・色・うぐいす菜」、「火・赤・声(音)・のし人参」、「土・黄・香・松葉柚子」、「金・白・味・甘鯛の身」、「水・黒・触・御椀」とまさにぴったりはまります。四季の移ろいで構成される日本料理であるが故に、やはりその彩りは日本人の心の琴線に触れるのでしょう。
1月号 松葉がに
高橋拓児
日本海に北西の冷たい季節風が吹き始める頃、鳥取の境漁港や兵庫県香住漁港、福井の越前漁港などから、手繰り網漁の漁団が蟹や魚を求めて沖へと向かいます。輪番の船が漁獲物を運んで帰ると、港は夜もせりや魚の加工で活気付きます。セリの目玉は「松葉がに」。オスの甲幅は最大15cm程で、雌はその半分位の大きさです。雌が小さいのは、短期間に産卵、抱卵、幼生放出を繰り返すので脱皮が出来ない為と言われています。そして雌には「こっぺがに」や「セコがに」といった別名が付けられています。浜では真夜中、獲れた「松葉がに」を専門業者が約15分ほど大釜で赤く茹で上げ、京阪神に出荷します。この茹で加減は一種の名人芸で、一つ間違えると色も味も悪くなります。一方、漁師の家族が食べるのは、さい分けの蟹や魚。海の時化さえなければ、食べるには困りませんが、田畑がないので稼いだお金で米や野菜を買わなければなりません。危険を冒し、命をかけて荒波に向かう男達の絆は強く、同じ船に乗る家族の結びつきも強固です。そんな背景を知ると全てに感謝と尊さを感じます。今回はそんな雪化粧をした「松葉がにの一盛り」です。
12月号 冬の華、ふぐ
高橋拓児
冬に大輪を咲かせる「ふぐのてっさ」。皆様もご存知でしょうが、フグのコースは大概決まっています。まずは、煮凝りに始まり、てっさ、から揚げ、つけ焼・白子焼、鍋、最後に雑炊となり、フグ一匹を余すことなく食する工夫がなされています。一般的にトラフグの天然物の産地は下関が有名ですが、全国漁獲量の6%ほどしかとれません。更に申しますと、その6%のうち大半は、東シナ海や日本海などの外洋で獲れるフグで「外海もの」と呼ばれます。そして、瀬戸内海の周防灘や伊予灘などで獲れるものは「内海もの」と呼ばれ、同じ下関のフグでも、貴重でワンランク上に位置します。その他、最近では三重県安乗産のフグや遠州灘のものも美味しく非常に人気が有ります。それともう一つ、ふぐ料理には欠かせないものがあります。それは「ポン酢」です。お店お店でそれぞれ味が違い、これによって、ふぐの味が左右されるといっても過言ではありません。この加減は本当に難しいです。私は、橙、酢橘、カボスの柑橘類に昆布、鰹節、醤油等を合わせ、冷蔵庫で寝かせて使います。「てっさ」に「ポン酢」、温かい「ひれ酒」、寒い冬には格別ですね。
11月号 とろの握り
高橋拓児
いよいよ鮪のシーズンがやって来ました。鮪といえば、クロマグロではないでしょうか。世界的に見ると、良いクロマグロの魚場は、南北ともに緯度が30〜50度の間にあります。海外では、アメリカの大西洋ボストン沖、地中海のスペイン、オーストラリアの南太平洋シドニー沖が有名です。そして、何を隠そう日本はこの緯度にすっぽり入る為、北海道から九州までクロマグロの産地になっています。日本近海のクロマグロは全て、台湾近海で産卵・孵化し、黒潮に乗って北上し、九州の手前で太平洋と日本海のルートに別れます。春先には、山口県沖の萩や宮崎県沖の油津に現れ、初夏には和歌山県の勝浦などで水揚げされます。更に日本海を北上したクロマグロは青森・竜飛を経て、かの有名な津軽海峡の『大間』へ移動します。その頃にはもう真冬で、脂の乗りも良く、素晴らしい身質になっています。惚れ惚れするような青森県『大間』のトロの握り、食べたくなりますね。
10月号 鯖
高橋拓児
「秋鯖は嫁に食わすな」という言葉があるように、鯖は秋になると脂がのり、旨みを増します。夏の鯖は15%ほどしか脂を含みませんが、旬の時期は24%にまで上がります。この時期の鯖の大半は、太平洋沿岸を回遊する鯖で、春頃に伊豆半島沖で産卵し、餌を食べながら北海道沖まで北上します。そして、この鯖が産卵のために南下を始める時期が9月〜10月頃であり、北海道沖→八戸沖→三陸沖→銚子沖→伊豆沖と南下してくるのですが、特に八戸沖で水揚げされる戻り鯖は最良とされています。反対に、九州沿岸の豊後水道で水揚げされる関鯖は、冬が旬で俗に「寒鯖」とも称します。鯖には、塩焼、へしこ、味噌漬など様々な調理法がありますが、やはり京都では鯖=鯖寿司ではないでしょうか。三枚に卸した生鯖に強塩をあて水でさらし、生酢に漬けます。寿司飯は甘めに仕上げ、両手で練り上げ、空気を抜きます。寿司をおして半日置き、馴染ませます。この鯖と寿司飯の『鹹・甘・酸』の一体感がたまらなく美味しいのです。ですが現在の日本は、鯖も輸入に頼っています。特にノルウェー産のシェアが非常に高いため、これを指してノルウェーから日本への空路を「現代の鯖街道」と呼ぶそうですが、果たして如何なものでしょうか?
9月号 焼き松茸
高橋拓児
美味しい松茸であれば、個人的には焼き松茸が一番好きです。炭火で新銀杏とともに香ばしく焼き、酢橘の酸が利いた有馬酢で熱々を食する、贅沢ですね。けれども、丹波産の松茸の収穫量は年々減少しています。松茸はご存知の通り、赤松の根に寄生して生育しますが、どんな赤松林にも見られるわけではないのです。松茸の胞子が偶然に青年期(若年期でも老年期でもだめ)の赤松の根に取り付くと、シロと呼ばれる菌糸の層を作り、7年後になってやっと松茸が生え始めます。京都が名産地たり得たのは、ひとえに青年期の赤松の豊富さだったです。それが現在では松林の多くが高齢化しシロが出来ず、結果として松茸が出なくなってしまったのです。中国、韓国、カナダ、メキシコ、モロッコなど、日本には世界の様々な松茸、そして松茸らしきものが輸入されますが、松茸の香気成分は揮発性で時間の経過で急速に失われるため、遠くの産地ほど弱くなります。最近は空路の発達で、韓国や北朝鮮、中国の吉林省産の松茸も品質の劣化が少なく、日本と同じ品種なので、香りの弱い岩手産のものより人気があります。ですが京都人としては、また再び京都産の松茸をたらふく食べる日が来るのを願うばかりです。
8月号 鮎の塩焼き
高橋拓児
鯛を魚の王とするならば、鮎は魚の女王ではないかと思います。すらっとした美しい気品のある形、そして鮎の持つ独特の香気は美女の香りを想わせます。7、8月が旬である鮎は秋に卵を産みますが、卵から孵った稚魚は川を下って海に入り、越冬をし、再び川を上って親になります。これが正真正銘の天然物、「天然遡上鮎」です。稚魚の時は、動物性のものを主食としますが、大きくなると川底の石に付いている珪藻などの植物を食べる為、胡瓜のような香気が出てきます。天然鮎の放流物と遡上物の見分け方ですが、姿、形を見ただけでは中々判断しかねます。一番確実なのは、鮎をひっくり返して下顎を見ると左右に針で刺したような小さい穴(側線孔)が4ヶづつ有り、左右対称の物が天然遡上鮎といわれています。穴の数が足りなかったり、非対象のものは養殖放流物とされてます。鮎は魚田、甘露煮、鮨なども美味しいですが、やはり食べ方として、備長炭で塩焼きにして、熱々を食べるのが一番ではないかと思います。いっぺんに10匹位食べたいものです。
7月号 鱧の木屋町焼き
高橋拓児
京都の町は7月に入ると「祇園祭」一色になります。祇園祭は別名「鱧祭り」ともいわれ、7月は特に、鱧無くしては語れません。鱧は、中骨以外全く捨てるところが無く、鱧料理には、鱧落とし、鱧寿司、牡丹鱧のお椀、鱧ざく、鱧つけ焼きなど枚挙に暇がありません。
けれども、京都人でも聞き慣れない「鱧の木屋町焼き」というのもあります。これは決して新しい料理ではなく、江戸時代の料理本「鱧百珍」にも記載されている列記とした伝統料理です。調理法は、骨きりした二本の鱧の身と身を合わせ、葛でとめ、串に刺して剥がれないように針金で留め、焼いたものです。鱧の身同士を合わせ、皮目だけを焼くことで中はふっくらと柔らかく、皮はパリッと仕上がる、誠に理に適った調理法です。では何故、木屋町焼きと呼ぶのでしょうか。それは、鱧の身が、「皮」と「皮」つまり「高瀬がわ」と「鴨がわ」に挟まれているからです。昔の人は粋ですね。
今回はその調理法を踏襲しながら現代的にアレンジしてみました。鱧の木屋町焼きに、鱧の中骨で取ったとろみスープをかけ、淡路産の雲丹を合わせ、花穂紫蘇、木の芽をあしらいました。彩りよく、香り立つ料理になりました。
さて、鱧料理で最も重要な骨切り。よく鱧切り十年と言いますが、骨切りの技術は1年で習得できます。か、しかし最低十年レベルの感覚と技術が必要ということです。ちなみに、鱧の皮にはコンドロイチンが多く含まれており、人の皮膚の老化防止に役立つと言われています。
page top▲
Copyright© 2007 Rotary Club of Kyoto South. All rights reserved.